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カイルは、桜もちをあらゆる角度から観察した。
「(日本のお菓子か。可愛い色だね、花の色なのかな。もしかして、ピンク?)」
「(? ええ、ピンクよ)」
妙な言い回しだったが、みちるは深く考えずに頷き、添えられた菓子楊枝で口に運んだ。
もっちりとした食感。うまみのある塩気と控えめな甘さの餡がたまらなかった。
濃い煎茶の苦みで一旦甘さをそそぎ、苦くなった口の中に再び甘みを投下する。
この一年、甘いジュースと甘いお菓子の掛け合わせばかりだったみちるの味覚に、そのメリハリは新鮮に感じられた。
「おいしい……」
と誉めると、奈月は「恐縮です」と喜び、更にお代わりを勧める。
遠慮なく頂こうと思った手が、ふと止まった。
「……やっぱり私、もう一度お父さんと話し合ってみる」
みちるは意を決して、そう言った。
何か誤解があったのかもしれない。
とにかく、父の話を聞かなくては。
カイルにもその旨を伝えると、彼も同意してくれた。
頭を冷やし、心が穏やかになれる時間を、奈月が与えてくれたおかげだ。
みちるが奈月に、感謝の気持ちを伝えた時だった。
「桜舞(おうま)」
桜の花びらが風に乗って届くように、沈黙を守っていた少年、会崎の声が静かに呼んだ。
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