水龍

2/9
前へ
/9ページ
次へ
バス停でもない場所で強引に降ろされ、途方に暮れる私たち。 確かに、駅へと続く道路は、先へ進めなくなった車やタクシーで渋滞中。 ドライバーの苛立ちを表すクラクションが、そこかしこで鳴り響いてる。 「しばらくしたら、駅の水も引くよね?どこかで時間をつぶす?」 「ちょっと寒いよ。トイレに行きたくなってきた。このビルの中にあるかな?」 「わかんないけど、とりあえず探してみる?」 雨足の強まる中、コンビニを探して歩き回るのも億劫だったので、目についた建物の中に三人そろって飛び込んでみた。 何の変哲もない、古びたテナントビル。 小さなオフィスや塾、クリニックなどが混在しているような、繁華街によくあるタイプの細長い建造物。 昼間にもかかわらず建物内部は薄暗く、入り口正面に小ぶりのエレベーターが一台あるだけ。 見た感じ、一階にトイレらしきものは無さそうだったので、隣の階段から二階へあがってみることにした。 暗く静まりかえった階段に、自分たちの足音だけが響いて、何だか気味が悪くなる。 外はあんなに雨音がひどかったのに、一歩、建物内に足を踏み入れると、まるで別世界。 外界と遮断された無音の空間に、不安が広がっていた。 「あ、トイレあったよ」 たどりついた上のフロアにも、ひと気はなかったけれど、私たちが目的とする場所はあった。 さっそく照明をつけようと、トイレの壁際のスイッチを押す。 しかし何度パチパチやっても、いっこうに明るくならない。 「停電かな?」 「そういえば、さっき外にいる時、何度も雷が鳴ってたよね?それかも」 「えぇ、怖い」 とりあえず真っ暗の個室で用を足した友人が、トイレの外で待つ私たちのところへ戻ってきた。 その瞬間、ゴオォォォッ…… 聞き慣れないごう音が、階下から響いてきて、え? 音のする方へ目をやると、さっき自分たちが上ってきた階段の下半分が、渦巻く濁流にのみ込まれていた。 「なっ……!」 「急いで!早く上へ!」 声をかけ、階段を駆けあがる。 このビルが何階建てなのかはわからなかったけれど、あんな泥水が下から押し寄せてきたら、ひとたまりもない。 身の危険を感じ、私たちは必死だった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加