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バス停でもない場所で強引に降ろされ、途方に暮れる私たち。
確かに、駅へと続く道路は、先へ進めなくなった車やタクシーで渋滞中。
ドライバーの苛立ちを表すクラクションが、そこかしこで鳴り響いてる。
「しばらくしたら、駅の水も引くよね?どこかで時間をつぶす?」
「ちょっと寒いよ。トイレに行きたくなってきた。このビルの中にあるかな?」
「わかんないけど、とりあえず探してみる?」
雨足の強まる中、コンビニを探して歩き回るのも億劫だったので、目についた建物の中に三人そろって飛び込んでみた。
何の変哲もない、古びたテナントビル。
小さなオフィスや塾、クリニックなどが混在しているような、繁華街によくあるタイプの細長い建造物。
昼間にもかかわらず建物内部は薄暗く、入り口正面に小ぶりのエレベーターが一台あるだけ。
見た感じ、一階にトイレらしきものは無さそうだったので、隣の階段から二階へあがってみることにした。
暗く静まりかえった階段に、自分たちの足音だけが響いて、何だか気味が悪くなる。
外はあんなに雨音がひどかったのに、一歩、建物内に足を踏み入れると、まるで別世界。
外界と遮断された無音の空間に、不安が広がっていた。
「あ、トイレあったよ」
たどりついた上のフロアにも、ひと気はなかったけれど、私たちが目的とする場所はあった。
さっそく照明をつけようと、トイレの壁際のスイッチを押す。
しかし何度パチパチやっても、いっこうに明るくならない。
「停電かな?」
「そういえば、さっき外にいる時、何度も雷が鳴ってたよね?それかも」
「えぇ、怖い」
とりあえず真っ暗の個室で用を足した友人が、トイレの外で待つ私たちのところへ戻ってきた。
その瞬間、ゴオォォォッ……
聞き慣れないごう音が、階下から響いてきて、え?
音のする方へ目をやると、さっき自分たちが上ってきた階段の下半分が、渦巻く濁流にのみ込まれていた。
「なっ……!」
「急いで!早く上へ!」
声をかけ、階段を駆けあがる。
このビルが何階建てなのかはわからなかったけれど、あんな泥水が下から押し寄せてきたら、ひとたまりもない。
身の危険を感じ、私たちは必死だった。
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