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階段をのぼりながらも、足がガクガクして、腰に力が入らなかった。
怖くて。
現実感のない、夢の中をさまよっているよう。夢なら早く目覚めてと願う。
ヨロヨロと三人で支えあいながら、立ち入り禁止の看板を押しのけ、屋上へ着いた。
強い雨風の吹きつける屋上の中央付近で、年配の男性が一人、ぼうぜんとしていた。
警察とは少し違う色合いの制服。おそらくこのビルの警備員だろう。
途方に暮れたような表情をして、突っ立っている。
だけど次の瞬間、目を奪われたのは、その人が佇む先の、フェンス越しの光景。
向かいのビルが、ゆっくりと動いていた。水の勢いに押し流されて。
まるでスローモーションのように、悠然と。
嘘でしょ?あり得ない。
戸建の家ならともかく、あんなにしっかりとした建造物が?
このビルと、ほとんど変わらない大きさなのに?
信じられない光景を目の当たりにし、私たちは、なす術もなく、ただ震えながら立ちすくんでいた。
「ど、どうしよう」
泣きそうになった。恐怖で、絶望で。この世の終わりを見ている気分。
私の人生は、こんな場所で、こんな状況で、プツリと途切れてしまうのだろうか?
さっきまで、あんなに楽しく、下らないお喋りしあいながら笑って過ごしていたのに?
こんなふうになるってわかっていたら、もっと有意義に時間を使うことだって、できたんじゃないの?
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