水龍

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雨音にまざって、パラパラと、上空を旋回するヘリコプターの音。 こちらに降りてくる気配はなかったけれど、必死で手を振る。 目立つように上着を脱いで、頭上で振り回してもみた。 けれど、気づいたのか気づいてないのか。 私たちの希望の光は、無情にも、こちらに尾翼をむけ、山の彼方へ飛び去って行く。 落胆すると同時に、ハッと息をのんだ。 機体が向かった方角にある、山肌が裂けていた。 木も土も荒々しく削り取られ、雪崩のように土砂が流出。 幾筋もの土石流となって、山裾へと滑り落ちていく。 巨大な土煙と、大量の土砂を巻きあげながら。 「………………」 私たちは声もでないまま、頭を抱えた。 いつか、こんな風景をニュースで見たことがあるような気がしてた。 上空のヘリコプターから撮影された映像。 日本のどこかで起こっている災害だとは理解しても、現実感は薄かった。 それを、まさか自分がこの目で、目の当たりにするとは。 こんなにも近くで、あ然とした面持ちで、見つめ続けることになるなんて……。
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