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「皆さん、あの上に避難しましょう!」
警備員さんの声にうながされ、屋上の端に据えられた貯水槽の上へと向かう。
我先にと、タンクの縁に取り付けられた、細い梯子を這いあがって。
少しでも、高い場所へ行きたかった。
あの恐ろしい水の流れから、距離をとりたい。その一心で。
ゴ、ゴゴゴゴゴ……
耳に飛び込んできたのは、地面を揺らすような唸り声。地響き。
視界がグラリと歪んで、心拍数が急速にあがる。
信じられないことが起こっていた。
想像を絶する事態に、驚愕し身震する他なかった。
動いてる?建物全体が?
方向を変え、角度を変え、押し流されていく。
ちょっと、待っ……
奇妙な音をたてながら、傾いていく巨大なコンクリートの建造物。
あの人たちは……
階下の部屋にいた男女の顔を、思い出す。
自分だってじゅうぶん絶望的なのだけれど、こんな状態では、あの場所にも、すでに水が入り込んできているだろう。
みんな泳いで逃げ出せた?そんなの無理。無事でいられるはずがない。
落胆と悲観を胸のうちに抱えながら、貯水層の出っ張りに手をかけ、滑り落ちないよう、必死にバランスをとって耐える。
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