水龍

8/9
前へ
/9ページ
次へ
もうどれくらい、こんな状況が続いてるのだろう。 あとどれくらい、ここでこうしていれば、助かるのだろう。 つかまり続けることに疲れ果て、顔を伏せた。 覚悟を決めなければいけないのかもしれない。私も。 気を抜けば、腕の力も指先の力も消え失せて、暗い水の底に引き込まれるだけだとわかっているけれど。 こんな恐怖を味わうくらいなら、そのほうが楽なんじゃないかとさえ思えてくる。 ああ嫌だ。限界。ギリギリ。 死ぬ瞬間ってどんな気分なのだろう?溺死って苦しいのかな? 「と、とまった!」 友人が叫んでハッとする。 流され続けていた建物が、大きな瓦礫の山に衝突し、動かなくなっていた。 ちょうど中州の岩にひっかかった枯れ枝のように、それ以上、先へ流されずにいる。 私たちは、瓦礫から突き出た鉄骨に手をかけ、慎重に足を伸ばした。 そのまま必死で、割れた巨大コンクリートのかたまりの上に、よじ登っていく。 できるだけ高く、なんとか安全な場所へ…… こんなことなら、普段からもっと運動しておけばよかった。 ボルタリングにもずっと興味あったのに、けっきょく思ってるだけで足を運ばなかったし。 スタミナがなさすぎる。部活をやっていた学生時代のように、機敏に手足は動かない。 先を行く友人たちを見つめながら、後悔していた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加