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ハァハァと息がきれても、そうだ。ここで、あきらめるわけにはいかない。
濁流の中央付近に取り残された、この大きな瓦礫のかたまりが、どれほど安全なのかはわからなかった。
何かの頑丈な建物が倒壊したあとのようだけれど、もし、もっと大きな流れが押し寄せてきたら、ひとたまりもないかもしれない。
保障なんてどこにもなくて、だけど希望があるかぎりは……
コンクリートの残骸の中腹で、友人たちが振り向いて、遅れをとった私を待ってくれていた。
「いいから!先へ進んで!」
声を張り上げ、叫んでる。
命綱などあるわけない。手が滑って落ちたら真っ逆さま。
ただ自分の足元で、今か今かと待ち構えてる、激流にのみこまれるだけ。
恐怖で身がすくんでも、それでも。
爪から血がにじみだしても、なんとか。
上へ上へ、高く……
いつか雨がやみ雲がきれ、その隙間から、わずかな光がもれだすその瞬間まで……
【完】
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