プロローグ

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「う~ん…?」 白を基調にした殺風景な部屋の真ん中で一人の少女とも少年とも見える子供が首を捻っていた。 目の前には球体関節を曝した一体の人形が椅子に座らせられており、子供は何やら腹部の辺りを頻りに弄っていた。 「おっかしいなぁ~…ここがこうだからこれで良いと思うんだけど~…」 どうやら人形の出来が悪かった様で改良に悪戦苦闘していたのだ。 肩甲骨の辺りで切り揃えられた人形の髪が子供が動く度に連動して揺れ、まるで生身の人間であるかのように微細な動きまで滑らかだ。 「あっ、出来た。」 子供は人形の改良に満足したのか人形の腹部から手を離し、うっすらとかいた汗を袖で拭う。 出来上がった人形は服さえ着せてしまえば人間と見分けがつかないであろう程の完成度だったが子供は何処か不満げで、その表情は納得が行っていない様だった。 「…ま、いっか。」 だがそんな表情も数秒後には消えてなくなり、代わりにゴミでも見るかの様な刺々しい視線が人形へと向けられていた。 失敗作、そう子供は呟くと人形へと背を向けた。 子供にとって失敗作もゴミも大差無いのだ、それが例え世間から幾ら称賛を贈られるような精巧な人形であっても。 「Dー9、これ片付けておいてね~」 「了解しました、マスター」 部屋の前には厳格な風格を漂わせる初老の男性が立っており、子供は短く指示を出すと返事を聞き流すかのようにその場を後にする。 レッドカーペットが敷かれ、塵一つない廊下を歩く子供は先程と打って変わってニコニコと満面の笑みを浮かべていた。 失敗作とは言え、作品を作り上げた後はそれなりの楽しみがあるからだ。 「やっほ~、癒されにきったよ~♪」 「お疲れ様ですマスター、今回は如何でしたか?」 寝室を思わせる部屋の窓際で慎ましげな笑みを浮かべる女性に子供は年相応の人懐っこい笑顔を輝かせると、その胸目掛けて勢い良く飛び込む。 「聞いてよ~Fー7、また失敗作が出来ちゃったんだ。」            ・・・・・・ 「それは残念です、また同胞が増えるかと期待していたのですが…失敗作なら仕方無いですね。」 飛び込んできた子供を女性は難なく受け止めるが微かな軋みが部屋に響く。 「あ、そう言えばもうそろそろパーツ交換の時期だっけ?」 「そうですね、F番はそろそろです。」 そう言って袖を捲った女性の関節には人間らしからぬ球場関節が見えていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!