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真上君は前髪をくしゃりと掻き上げる。そして目の下を少し紅く染め、視線を逸らした。
「このまま佐藤と縁が切れたくないと思ったら、自然と口にしていた」
何、そのセリフと表情。恥ずかしい!
こんなセリフ吐かれて落ちない女性がいるの? ずるいぞイケメン、卑怯モノ!
こちらにまで彼の熱が伝わってきて頬が火照る。
「それで……返事は?」
「え」
あ、私のことか。今、思いっきり傍観者と化していました。
当事者となると話は別だ。だって、友人からでいいと言ってくれたけど、真上君は私をそういう目で見てくれているんだし、いずれはそういう――そういうって何なのよ、うわぁぁっ! しゅ、羞恥に。
「耐えられない」
妄想が炸裂して完全に茹で上がった顔を抱える。
そんな私に彼は重く沈んだ声で呟いた。
「やっぱり今でも俺のことが嫌いなのか」
私、今、嫌いって言った!?
慌てて顔を上げて彼を見た。
「き、嫌いじゃないってば!」
「じゃあ、好き?」
「それはまだ……」
「好きか嫌いかで言うと、どっち?」
嫌いじゃない。嫌いじゃないが、好きと言い切るのはいくらなんでも早すぎる。
思わず抗議する。
「何で二者択一なの!」
「いいからどっち。でも嫌いではないんだろう?」
「嫌いじゃないから、す、好き? な方?」
「俺のこと、好きなんだ?」
「好き?」
顔は良いし、背も高いし、気遣いも出来る。性格も意外と真面目だし、一緒にいて楽しい。……あれ? 好きになる要素しかない?
「好き、かも――って。ゆ、誘導しないでー!」
「悪い悪い。でもこれから俺のことを好きになってくれる可能性はある? ゼロ?」
「ゼ、ゼロでは。……あ」
さっき、真上君のことは好きにならないから安心しろと大見得切ったところだ。
「あの」
「ちょっと待って」
真上君が手をやって会話を止めた。
次は各駅停車らしい。アナウンスが流れて一旦会話が中断したが、すぐにまた彼が切り出した。
「良かった。全くの脈無しってわけじゃないんだな」
「い、いや違うの。ほら、さっき私!」
「撤回させるつもりだから気にしなくていい」
「え?」
真上君が挑むように瞳に強い光を灯し、私を見据える。
「これから次の快速列車が来るまでの間、全力で口説かせてもらうから」
「……は。なっ!?」
驚きと共に彼の強い視線に耐えきれず、私は慌てて顔を背けた。
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