次の快速列車が来る間

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 私だってさっきの言葉には責任があるし、ここで引いたら女がすたる。何よりも、思いがけずスペックの高い男に交際を申し込まれたからといって、簡単に頷くチョロい女だと思われたくはない。  復讐ではないと言っていたけど、からかっているだけじゃないだろうか。こうやって悩んでいる私を見て笑っているのかもしれない。  ……むしろ笑っているとイイナー。  この戦いを受けて立つか、はたまた各駅停車へと敵前逃亡するか。  決断まであと十秒。  ちらりと真上君を見ると、こちらを射貫きそうなほど真っ直ぐな彼の瞳とかち合った。 「うっ」  きょ、今日は日が悪い。本日は一時退却だ。これは逃亡ではない。勇気ある撤退なのだ。  ――よし、発車ギリギリ駆け込み乗車しよう。  実にマナーの悪いけしからん結論に至り、私がタイミングを狙って腰を浮かせた瞬間。  がしっ。  真上君に手首をがっちりと掴まれた。 「だから俺がここで逃がすとでも思う?」 「ソ、ソウデスネー」  軽快な音楽と共に扉が閉められた電車を止める術もない私が再び力なく腰を下ろすと、彼はふっと笑った。 「佐藤が何を考え巡らせているのか分からないけど、俺に敵うわけがないだろ」 「は、はあ!?」  何その上から目線。ケンカを売っているの? 買いますよ?  すると真上君は、彼の体温を感じられるくらい私の肩をぐっと引き寄せた。 「俺は佐藤と本気度が違うからな」 「っ!」 「これからは俺のターンだ。覚悟しろよ、佐藤里香」  彼の悪戯っぽくも艶やかな笑みに私の胸はどくりと一際大きな鼓動に揺れる。  息が詰まりそうになったその時。 「きゃ」  まるで私を庇うかのごとく、風でなびいた髪が私の表情を隠す。  ナ、ナイス風! カミの救いとはまさ――。 「……風、邪魔だな」  真上君は手を伸ばして、ごく自然に私の頬に触れながら耳元まで髪を掻き上げた。 「な」  何、素で触っているんだぁぁ!  目を見開く私の一方、彼の手慣れた感が無性に腹立たしく、自分も精一杯意地を張ってみる。 「す、ずしいね。寒いくらい!」 「そうか? 佐藤、顔真っ赤」 「き、聞こえない聞こえない!」 「なるほど? じゃあ」  笑んだ彼は私の耳元に顔を寄せる。  そして。  ――って言ったんだ    低く甘く囁いた。  生温い風は熱くなった私の頬を冷やすことなく、むしろ熱を上げる秋の始まりとなりそうだ。 (終)
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