次の快速列車が来る間

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 何よ。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群で女子生徒の憧れの的だったんだから仕方ないでしょう。別に私は恐れ多くも好きとまでは思っていませんよ。 「ねえ、林君。今も彼と会うことがある?」 「違う。先週会った」 「そうなんだ。写真とかある?」 「……あるけど」 「見せて見せて!」  彼はますます面白くなさそうな表情をするが、しぶしぶ携帯を取り出してくれる。 「彼は今、何をしているの?」 「――マンだよ」 「え? 何?」  電車到着のアナウンスが入って、彼の声がよく聞こえない。  もう一度尋ねようと私は彼の方へ顔を少し寄せると、夏の名残りである生温い風がふわりと頬を撫でた。 「……一流商社マン」 「そうなんだ。どれどれ」  彼の携帯を覗き込むと、それは隣の彼と野々村君が一緒に写っている写真だった。  今の彼は仕事帰りにしてはラフな格好をしているが、写真ではスーツを着込んでいる。 「へぇ。スーツ姿も似合うね。って! ちょっと速いよ。まだ見てないのに」  すぐさま携帯を引っ込めた彼に私は抗議の声を上げた。 「見ただろ」 「見てないよ」 「今、スーツ姿が似合うって言っただろ」 「え? それは広岡君を見て言ったのであって、野々村君はまだ見てないよ。彼もスーツ着てたっけ?」  彼は目を見開いた。  お、正解らしい! 「広岡君なんだ? 当たった!」 「……あ。いや、違う」 「じゃあ、今の間は何だったのでしょうか」 「いいから。というか、名前を当てようとせず、せめて思い出す努力を見せるんだ……」 「あ、ごめんなさい。本音がぽろり」  両手で口を塞いでみせた私に彼は苦笑する。 「ほら」  そして再び携帯画面を見せてくれる。  今度こそ野々村君の顔を見ると、品格を残して少しだけ明るい茶色に髪を染め、薄く笑みを湛えて憂いの表情を浮かべていた。  人から好意を受けることに慣れた人間特有のあざとさすら感じてしまうのは、やはり私の性格が悪いせいだろうか。  しかしイケメン二人の構図も相まって、ビジネス誌の表紙にでもなりそうな格好良さがそこにはあった。 「ヤバイ。超格好いい。――ちょっ、ちょっとちょっと! 写真削除表示になっているよ!」  私は咄嗟に彼の手を掴んで止めた。 「ああ、つい無意識に」 「無意識にってねぇ。せっかく二人……あ」  電車が到着し、たくさんの人が降りてくるのに気付いた私は慌てて彼の手を離した。
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