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仕事で疲れて帰っている中、駅に降りたら男女が仲良くしていたる光景が目に入ってきたらイラっとするだろう。私なら心の中で舌打ちすると断言できるな。
非リア充ほど、こういうのが目に入っちゃうんだよね、悲しいことに……。
「佐藤?」
「あ、いえ。それで藤本君。今、野々村君はどうしているの?」
「違う。だから一流商社マンだって」
「うん。結婚は?」
女子生徒の憧れの的だった野々村君の心を射止めた女性はいるのかな。
興味本位で彼に尋ねると、何だか嫌そうな表情を見せた。
「ん?」
「いや。アイツもまだ独身だよ」
「そうなんだ?」
野々村君のお眼鏡に適う女性はまだ現れていないようだ。
「特定の彼女を作らない主義らしい」
「彼女は欲しくない人?」
「……いや。彼女が切れたことはないらしいけど」
彼は歯切れ悪そうにそう言った。
「つまり付き合うけど、彼女としてはいらないということ?」
「さあ、そこまでは。人の恋愛観で俺が口出しすることもないし」
イケメンって奴あぁっ!
肩をすくめる彼にふつふつと怒りが湧き起こってくる。
「だって、特定の彼女は作らないのに女性が切れたことはないってことは二股しているか、取っ替え引っ替えしているってことでしょ!」
「何で俺が怒られているんだ?」
「知らないわよ、もう。ああ、汚らわしい! 近寄らないで。ついでにイケメン滅べ!」
私は少し腰を浮かせると椅子を一つ空けて座った。
長らく座られていないその椅子はひんやり心まで冷やされて不愉快だ。
「お、おい! それ、俺も含まれているのか!? 何だよそれ。とばっちりにも程があるだろ。俺の話じゃない」
「同罪でしょ」
「何で同罪になるんだ」
「友達だから」
ええ、ええ。モテない女の完全なる妬みからくる独断と偏見ですよ。
彼は眉をひそめるとため息を吐いた。
「俺は付き合っている時、自分では誠実に接していたつもりだし、別れたからってすぐに次の女性と付き合えるほど器用じゃない」
「そ、そうなんだ?」
確かに一緒にしたのはまずかった。
慌てて頭を下げる。
「ご、ごめんなさい」
「いいよ。分かったら戻って来たら」
そう言いながら指でトントンと彼の隣の椅子を叩くが、今さら何だか気恥ずかしくて戻りたくはない。
「こ、声は聞こえるし、椅子は冷たくなっているし、もうここでいいよ」
「……分かった」
彼はすっと顔を背けた。
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