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「ほ、ほら来たって何だよ」
「一緒にいて楽しいって、雰囲気が良いとか性格が良いとか、そういうのでしょ?」
「まあ……そうだろう」
「じゃあ、聞くけどあなたはそれが彼女の全てだと思っているの?」
「え? いや、それは……」
言葉を詰まらせる彼に私は畳みかける。
「雰囲気や性格が良いっていうのは、その人の『良い面』でしょ。でも悪い面だって当然あるわけで。その人の表面だけで好きだっていうのは、外見から好きになった人とさほど変わらないと思わない?」
「……うっ。何か違うと思うが、明確に反論できない」
「ふふん。参ったか。――なんてね。でもね、外見っていうのはどうしても一番に入って来る情報だから、そこから好きになる子も否定はしないであげてほしいな。一目惚れって言葉もあるぐらいだし。深く付き合わないとその人の本質は分からないものだから」
しかし彼は未だ渋い表情を浮かべたままだ。
「いつまで経っても表面しか見ない奴も否定するなと言うのか?」
「ん?」
何、何があった?
私が首を傾げると彼は諦めたようにため息を吐いた。
「俺はアクセサリー感覚らしい。俺を連れ歩くと自分の株が上がるから付き合っているんだって、元カノが女友達に話しているのを偶然耳にした」
「うわ、何それ酷いね! それは怒っていいよ。私が許可する」
「……どうも」
私に許可されたって嬉しくはないのだろう。彼は微妙な表情を浮かべた。
けれど私は構わず続ける。
「さっきはああ言ったけど、私は外見だけを重視する人を肯定したわけじゃないんだから! そうだそうだ! 人間、若さとか顔が全てじゃないんだからぁぁっ!」
若干涙目で拳を作って振ってみせると彼はどん引きした。
「う、うん、何かごめん。俺が悪かった。とりあえず落ち着こうか。よーしよし良い子だ落ち着けー。ほら、電車から人が降りて来るぞ」
暴れ馬を宥めるかのごとく、私の肩に手をやってあやしてくる彼に、はっと我に返る。
いつの間に電車が到着していたんだろう。危うく、シラフなのに酔っ払い女かと白い目で見られるところだった。
……でも本音を口に出せて、ちょっとすっきりしたな。
駅に降りてくる乗客たちの表情を見てそう思う。疲れた姿の彼らは一様に腹に一物を抱えていそうだ。
改札へ向かう乗客たちをぼんやり眺め、そして私は再び、現在彼女無しのようだがリア充の隣の彼に視線を移した。
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