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「そんなことを自慢するやつ、初めて見た」
ええ、そうでしょうね。私も動揺のあまり、わけの分からないことを口走ってしまった自覚はありますよ。でもここまで来たら、もう開き直ります。
「誰しも学生の頃みたいにいつまでも純粋なままではいられないよ。世間の荒波に心がすり減ったり、がりがりと削られたりするものよ。今日も刺々しい気持ちになって帰って来たところ。どうだ! がっかりしたでしょ?」
胸を張る私に彼は声を立てて笑う。
「だから何を自慢しているんだよ」
「生憎と村崎君みたいに自慢するところがないので」
「違う。いや、むしろそう裏表無いのが佐藤の良いところかもな」
何とまあ、人が良いのは彼の方だ。これまでよくこの厳しい世を渡って来られたものである。
「ほらほら、また騙されている。私はいつも人には良い面ばっかり見せているけど、実は腹黒なんですぅ、だ」
「ほんと何だよ、その腹黒自慢。……でも。じゃあ、裏表が無いのは俺の前だけってことか?」
少し悪戯っぽい笑みを浮かべてみせる彼。
そんな彼に私も笑みを返す。
「ええ、そうよ。今日、あなたに会えて、久々に純粋だった頃の気持ちを思い出すことができたわ。ありがとう。真上君」
「――え」
目を見開く彼に私は得意げに笑った。
「でしょ、真上君。真上要クン」
「不意打ち……過ぎだろ」
真上君はそう呟くと、少し俯き、額に手をやって表情を隠す。
「あなたこそ、『ま』から始まる名前が過ぎたのに何も言わなかったよね。そのまま私が『ん』まで行ったらどうするつもりだったのよ」
「……さすがに『ん』から始まる名前はないだろ」
真上君は顔を上げてこちらを見ると、情けないような、諦めたような複雑な表情を浮かべていた。
うん? その表情は何なのか。さっきは忘れたと言ったら呆れていたのに。思い出さない方が良かったわけ?
首を傾げる私に彼はなぜかため息一つ吐いた。
「それで、いつ思い出したんだ?」
「今し方」
「嘘だろ? 狙っていただろう?」
「ううん。割と本気」
再び先ほどと同じ言葉を口にすると彼はまた肩を落とした。
「それが本当なら無意識にずるいな。俺は振り回されてばかりだ」
何を言う。真上君の方が私を振り回していたんでしょうが。けれど、少し拗ねたような表情の彼に何だかおかしくなる。
私の頬が緩んでいるのに気付いたのか、彼はひと睨みしてきた。
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