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えーっと?
「ごめん。ずるい言い方だった。ちゃんと言う」
彼は少し自嘲する。そして一度言葉を切ると私を真っ直ぐ見つめて言った。
「俺と付き合ってくれませんか」
……んん? 付き合うってお茶にだよね? さっき流れで約束しちゃったし。敢えて確認する意味は何? お茶じゃなくてってこと?
いやいや、まさか。久々に再会して、イケメン様がいきなり付き合おうとかご都合主義にも程がある。図々しい。少女漫画じゃあるまいし、それは万に一つも無いな。
はっ。
そっか。さっきは復讐などしないと言っていたが、もしかしてこれは復讐?
ここでうんと答えれば、ふんやっぱりお前は顔なんだなと馬鹿にされるパターンか!
じゃあ、いいえって答えればいいのね。
あ、でも。いいえと答えたら、何の取り柄も無い平凡女のお前に告白したとでも思っているのか? お茶の確認に決まっているだろとこれまた馬鹿にされそうだ。
え? 何? これ、何の罠? 何と答えるのが正解?
先ほどのマルチ商法に対する答えよりも難易度が上がっていて、嫌な汗がだらだら流れてくる。
「……佐藤?」
少女漫画でヒロインが男性から付き合ってほしいと言われて、ぽかんとした表情でどこに? と尋ねるシーンがある。
あれって、何が鈍感だよ、絶対計算しているだろーなんて思っていました。
だけど本当は、きっとヒロインの百合ちゃん(仮)も彼の真意がどこにあるのか、戸惑っていたんだろう。彼の言葉を額面通り取って良いのかどうか、悩みに悩んで、必死に絞り出した答えだったに違いない。
「佐藤、あのさ」
それなのにそんな百合ちゃん(仮)のことをあざといだの、計算高いの、鈍感とかありえないっつーのなどと散々罵っていた私を許して下さい。まして百合ちゃん(仮)はまだ高校生だったのに。
本当にごめんなさい。
「おーい。佐藤、聞いている? 電車到着したけど」
いい大人なのに気の利いた答えを見出せず、悩んでいる私を嘲り笑ってやっ……。
――えっ! 電車が到着したですって? 救いの神とはまさにこのこと!
「あ、電車が来たね。短い時間だったけど楽しかった。私、行くね。ではまたね!」
素早く立ち上がり、足を一歩前に出したその時。
くいっ。
腕を引かれた。もちろんその腕を引く相手は真上君だ。
「俺がここで逃がすとでも思う?」
彼は私を捕まえる手に力を込めた。
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