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僕が生きていれば、目の前で、僕も中学生になれたはずだった。
人生のほぼ半分通った保育園の桜の木の下で遊んでいると、仲の良かった幼馴染の仲良し4人組が制服姿で姿を見せた。
部屋の中から先生を連れ出すと、写真撮影を始めた。
僕がなることの出来なかった中学校の制服が目映く見えた。
「先生覚えてます? 卒園の時、先生に桜の枝を折って怒られたの?」
「そうそう。先生にプレゼントしたくて、私たち桜の枝を折って、先生泣かしたよね」
「桜が可愛そうだって」
「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿って言って、桜は枝を折ると木自体が弱っちゃうんですよね?」
保育園の中庭に悠然と咲き誇る満開の桜が、春風にそよいでは花びらを散らす。
僕は、保育園を卒園した時の事を思い出していた。
卒園式はみんなお揃いの制服で迎えた。
みんなおそろいの白のYシャツ。
幼児用だから袖にゴムが通してあった。
女の子はジャンバースカート。
男の子はサスペンダーの付いたズボン。
目の前の仲良し4人組の輪に誘ってくれた花ちゃん。
卒園の後、二人で並んで写真を撮った。
仲良し四人組の中で、一番背が低くて、ドジで、でも優しくて。
学校を休む度に、家にプリントを届けてくれた。
最後、お別れにも来てくれた。
僕に手を合わせてくれた。
「木が弱るとかじゃないのよ、みんな。桜の木は一つだけど、桜の花はたくさん咲くでしょ? 考え方の問題かも知れないけど、一つの木と考えるのか、この年に一度だけ咲いた一つの花と考えるのか……。一つの木なら一生の一部だけど、一つの花なら一生の全てでしょ? 先生は、花を一つの人生と思って考えたから」
僕と仲良し4人組の担任だった先生は、少し照れくさそうにそう言って、短くため息を付いて言った。
「貴方達は、桜の木だね。何度も咲く事が出来るから」
じゃぁ、僕は一度きり咲いた桜の花だったのだろうか……。
『桜6回 花の咲く頃 ありがとうの言葉で卒業』
卒園の時の送る言葉で、全園児一言ずつ、発表した時、僕に割り振られた結びの言葉。
せめて、あと、1年少し生きて、この場所で学生服を着て桜の木の下で笑いたかった。
咲かせたかった。
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