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「なぜこんなことしなければならない。
俺は君を殺したくなかった。
君は清らかすぎた」戦士の心は王の命令を果たし満足するはずだったが、
酷く揺らいだままだ。
ところが女性に刺したはずの傷口がみるみる塞がり、
女性はただ悲しみで泣いていた。
美しいその人はまさしく美鳥自身だったのだが、
まだ自覚がなかった。
「あなたは悪い人じゃない……」戦士の心の様が何とも潤しく美鳥の心を揺さぶった。
「あなたは強くて優しい人よ」そう言うと、
美鳥は手のひらに平和の願いを込めた金色の羽根をのせ、
そっと息を吹きかけ彼の心へゆっくりと刺した。
そして勇敢な戦士に再び巡り逢いこの世界を変えられるように強く願った。
するとどうであろう。
ぼやけた戦士の顔がはっきりしたが、
二人は重なったままスーッと滝壺へ落ちた。
煌々と流れる水へ二人が落下する寸前に戦士の肉体は滅び、
そこから二つの魂が現れ一つは近くへ、
もう一つは美鳥の体とともに遥か彼方へ消えた。
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