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「紅葉君? 紅葉君待って!」美鳥は魘されて目が覚めた。
あの戦士は紅葉だった。
そして美しい女性は美鳥だった。
この夢は紅葉が見続けた夢と同じである。
美鳥は夢から覚めて少しの間、
自己嫌悪に陥った。
今まで漠然としていたものが少しずつ明白になり美鳥は何が真実か、冷静に考えなければならなかった。
美鳥は胸に手を当て騒ぐ心を落ち着かせた。
なぜなら別世界で紅葉を消したのは美鳥であり、
彼の胸の苦しみは美鳥の刺した願いの羽根が原因だったから。
それでも美鳥はまだ、
「何かの間違いよ」と、
疑った。
現実離れした世界の馬鹿げた話を誰が信じようか。
美鳥は葛藤した。
「ポンポコポン……。朝です。起きて下さい」
目覚まし時計が起床時間を教えた。
美鳥の心臓はまた胸から飛び出すくらいにドキドキして、
片手で胸を押さえながら階段を一段一段下りた。
それから美鳥は洗面所へ行った。
鏡に映る姿を左右に角度を変えて顔を何度も確かめた。
ただ彼女の友達は、
「美鳥は美人よ」と、
言う。
それに些か疑問だったが、
鏡に映った美鳥は夢の女性と随分かけ離れた平凡な顔だった。
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