櫻の樹の下には屍体を埋めている

14/17
前へ
/17ページ
次へ
 気の強そうな顔をした女が、こちらを見ると優雅に微笑んだ。 「ただの人間に言っても無意味でしょうけれども、一応自己紹介しておきましょうか。私は、一海円。お祓い家業を継ぐ予定の、女子大生よ」 「……は?」  思わず声がでた。  なんだって?  構わず、一海円と名乗った女は紹介を続けて行く。 「こっちは、従弟の直純。それと探偵の渋谷慎吾」 「おお、探偵で紹介してくれるんだ」 「ナンパな大学生の方がよかった? それから、貴方が狙ったのが、私の妹の沙耶。ねぇ、私の可愛い妹に手ぇ出して、タダで済むと思ってるのかしら?」  優雅な笑みをそのままに、一海円が吐き捨てる。そして、顔を覗き込むようにしゃがみこんだ。 「言い分があるなら聞くけど?」 「……桜を」  首だけで強引に見上げる。咲いている桜の花。夜空に浮かび上がる、白い花弁。  「桜を咲かせなきゃいけないんだ。綺麗に。美しく。それが、俺の役目だから。だって、神様がそういうから」 「櫻の樹の下には屍体が埋まっているってことか」  背中の男が言う。 「そう!」  わかってくれたのか。そう思って大きな声を出すと、 「同意したわけじゃねーよ」  探偵とかいう男の方が呆れたように言った。 「死体が無くても花は咲く、自然舐めんな」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加