櫻の樹の下には屍体を埋めている

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 +  犯人の男は殺人未遂と二十三件の器物損壊の罪に問われることになる。やはり殺人未遂の存在は大きいようだ。連絡がつかない円に代わって、直純と沙耶が立てた囮作戦は上手くいったようだ。  しかし、神様の思し召しだのなんだの、電波なことを言っていることから精神鑑定も視野に入れられているらしい。  実に不愉快な話だ。  いずれにしても、犯人の男が諸悪の根源だ。とはいえ、そんなことは殺されたペットの飼い主たちには関係ない。特に、 「どうしてミルキーを助けてくれなかったのッ」  渋谷慎吾に捜索を依頼した人間には。 「どうしてッ」  桜の木の下で、慎吾の胸元を拳で叩く女性。何度も、何度も。 「ごめんね、サオリちゃん。ごめん……」  ただひたすらに、慎吾はそれに謝罪の言葉を重ねる。  これを依頼人全員分繰り返したのだろうか。  離れたところで見守りながら、円は小さくため息をついた。 「真実を背負う覚悟がないのならば探偵なんてしてはいけない、ね」  慎吾が言っていたことを思い出す。それは正しいのかもしれないが、だからといって彼がなじられる謂れはないだろう。  少なくとも、ミルキーという猫に関しては、慎吾のところに 依頼がいった段階で既に殺されていたはずだ。どう足掻いても、彼が助けられるはずはない。  そう円が指摘したところで、あの男のことだ。もっと早くに犯人を見つけられていれば、被害は食い止められた、とかなんとか言うのだろう。ただの大学生の癖に、何をそんなに背負おうというのか。  女性は、慎吾を叩くのをやめ、わんわん泣いている。  あの女性ももう少ししたら、自分の発言のむちゃくちゃさに気がつくのかもしれない。今はただ目の前の原因がありそうな人間をなじって、気分を落ち着けたいだけなのかもしれない。  円に出来るのは、いつか彼女が少しでも慎吾の労力に感謝してくれる日が訪れるのを祈るだけだ。
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