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櫻の樹の下には屍体が埋まっている。
「これは信じていいことなんだよ。何故って、櫻の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか」
呟く。
あの公園の大きな桜の樹。あれがあんなに綺麗なのは、下に死体が埋まっているからだ。みんな、そのことを知らず、綺麗綺麗と愛でている。死体の上に座って騒いでいる。
ああ、おかしい!
仕方がない。この秘密を知っているのは自分だけなのだから。
また、一つ、埋めてきた。
きっと、いい養分になってくれるだろう。
あの公園の大きな桜の樹。満開までは、まだ時間がある。
もっと、もっと綺麗に咲かせなければ。もっと、もっと。
「埋めよう、埋めよう」
さて、次は、どうしよう。
死体候補を探して歩いていると、高校生二人組とすれ違った。黒い制服の、男女。
すれ違い様、女の方が何故か驚いたような顔をしてこちらをみた。
振り返ると、向こうも同じように振り返って自分を見ていた。
黒目がちの大きな瞳が、まっすぐにこちらを見てくる。
顔を。
……いや、違う、その後ろを?
「沙耶ー?」
先に行った男が呼ぶと、
「ごめん」
慌てたように、男の元に振り返った。
それでもちらちらと、こちらを見てくる。
きゅっと引き締められた口元は、何か悲鳴を堪えているようにも見えた。
嫌な予感がする。
一体、何を見た?
何が、見えた?
何を、何を。
バレただろうか。
秘密が、暴かれるのだろうか。
根拠はないが、そんな気がした。まだ、埋めていないのに。まだ、埋めたりないのに。
そうだ。次はあの女にしよう。
思いつくと、足取りが軽くなる。
しばらく待ってから、振り返り、女の歩いた方へ向かう。
あの黒い長い髪も、黒い制服も、黒い瞳も、きっと桜によく似合う。いい養分になりそうだ。
「櫻の樹の下には屍体が埋まっている」
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