櫻の樹の下には屍体を埋めている

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「つまり、沙耶ちゃんはすれ違った男の背中に、この犬猫達の幽霊を見たと」 「はい」  家にやって来た慎吾に説明すると、彼は険しい顔をした。 「作為的なものを感じると思ったら、どうりで」  まいったな、と頭を掻く。  兄の友人であるというこの人が凄いと思うのは、こういうところだ。今までまったく霊的なことを体験したことがないのに、自分の話を疑わずに信じてくれること。それはもちろん、直純や円……兄や姉が彼と築き上げて来た関係性にもよるんだろうけど。 「その男が、この子達を拉致って殺したってことだよね、それって」 「恐らく。凄い顔で、男を睨んでたから」  沙耶の言葉に、慎吾はもう一度、まいったなと呟いた。 「人相、覚えてる?」 「……ごめんなさい、後ろの方が気になっちゃって、顔はあんまり」 「あー。そっか」 「ごめんなさい」 「いや、大丈夫」 「見たら、わかる感じ?」  それまで黙って話をきいていた円が尋ねてくる。 「円姉が? それはうん、絶対わかる」  あんなに背後に犬猫の霊をしょっているひとなんてそうそういないし、いてたまるか 。 「なら、わかった。探す」  直も呼ぶか、なんて呟くと椅子から立ち上がる。 「何、手伝ってくれんの?」 「乗りかかった船だしね。ディナー一回で手を打つ」 「お前のディナーたけーんだよ、飲ん兵衛が」  嫌そうに呟くと、慎吾も立ち上がった。 「沙耶ちゃん、ありがと」 「あ、いえ。あの、あたしも手伝いましょうか?」  慎吾が見えない以上、見える人間が多いに越したことはない。直接見ているのは沙耶だけだし。 「夜の捜索、高校生の女の子には頼めないよ」  慎吾がやわらかく微笑む。 「でも……」 「沙耶ちゃん連れて夜にふらふらしてたら直純に呪い殺されるしな」 「遅くなってあんたが補導でもされたら面倒でしょ。いいから大人しく待ってなさい。あ、夕飯食べてね」 「うん」  大人に任せなさい、と微笑みながら、沙耶の額をつっつくと、円はさっさと玄関に向かった。 「戸締まりして気をつけて」  慎吾も同じように笑う。 「……はい」  なんとなく釈然としないものを感じながらも、素直に頷いた。  連れ立ってでていく二人を見送ると、大人しくドアに鍵をかけて、室内に戻った。
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