桜とトモに散る

7/22

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「でも先生、学校は今週で終わりですよ」 すぐにマー君が言った。今週の金曜日には卒業式がある。僕たち六年生はそれでこの学校ともお別れになる。桜もそうだけど、小学校自体も見ないと思う。 「そうか、卒業式は早いんだったな」 岩井先生は今思い出した、という顔をした。この先生は僕たちが六年生だということを知っているかどうかも怪しい。 「まあなんにせよ、見知った顔がいなくなるのはさびしいな。卒業式当日は号泣するかもしれん」 「先生の泣き顔はあまり見たくないです」 マー君が真面目な顔のまま、そう言ったとき、学校のチャイムが鳴った。八時二十五分を知らせるチャイムだ。八時三十分から朝の会があるから、それまでには教室に行っておかなければいけない。遅刻をすると、担任の先生に怒られるのは当然で、その後に反省文を書かないと家に帰れない。前に一度遅刻したことがあって、なんとか反省文を書いて学校から脱出できたけど、家に帰ってお母さんにめちゃくちゃ怒られた。もう一度同じ体験をしたくはない。 「マー君、もう教室にいかないと」 「そうだね。じゃあ先生また後で」 少し慌てた様子でマー君は先生に頭を下げた。 「おう」 岩井先生が軽く右手をあげた。 さて、教室に急ごうと僕が右足を踏み出したとき、マー君がふと思い出したかのように立ち止まった。 「あ、先生。さすがに僕たちも六年生ですから道に生えてる草なんか食べませんよ」 きょとんとした顔の岩井先生を残して、僕たちは教室に向かった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加