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 新宿から電車で五分。たったそれだけなのに、都会の喧噪とはかけ離れた別世界だ。かといって、人が少ないわけではなく、深夜になっても不思議と老若男女が入り交じって、外を歩いている街。  この時代にはめずらしく、商店街は活気づいている。  八百屋の隣にレコード屋があったり、路地を一本入ると乾物屋の奥に多国籍料理の屋台が現れたり、唐突で規律とはかけ離れている。  数多くの個性的な店は、長く愛される店がある一方、入れ替わりも激しい。それでも新しいものも、古いものも飲み込んでしまう懐の深さと、雑多な雰囲気が妙な魅力になっている。  『ビストロ SODA』は、そんな街の駅近く。高架下に平行して、風俗の店が点在した通称ピンサロ通りの一角に、店を構えている。ネオンサインが浮かび上がる妖しい通りなのに、なぜか昔から飲食の名店も多く、老若男女が行き来する様子がこの街らしい。  雑居ビルの二階、看板の掛かるドアの先にはこぢんまりとした縦長の店内。厨房が見渡せるカウンターが八席と、四人がけのテーブルがふたつのみ。  フランス料理をベースにしているが場所柄もあり、それらを気さくに食べることができるのが、相田和雅の城だ。     
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