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 冷蔵庫に寝かしていた生地を取り出すと、トコトコと悠成がやってきた。不思議そうに作業台の上をのぞき込んでいる。 「これから、デザートを作るからな」 「やったー。いいにおいだね」  クンクンと匂いを嗅ぐ悠成の横で、フライパンを温めてクレープ生地を薄くひろげる。たちまちバターの香ばしい香りが立ち上った。  数枚焼いたところで、別のフライパンにバターを溶かし、カットしたオレンジと、ジュースを合わせてゆく。そこにきれいに畳んだクレープを入れて、ソースとなじませた。 「悠成、火があがるから、ちょっと下がってろ」 「はい!」  温めたレードルにグランマルニエを注ぎ、火を移す。皮を長くつなげて剥いたオレンジにかけると、細長い炎が皮を伝って、オレンジの香りを纏いながら、クレープに落ちてゆく。 「魔法?」 「ううん、フランベっていうんだよ。魔法というか、技みたいなもんかな」 「すごい!」  青い炎を目をまんまるにして見入っている悠成は、同じように昔相田の作ったクレープを「魔法みたい!」と喜んでくれた俊介にそっくりだ。相田は感慨深くなり、目を伏せた。 。  オレンジの果汁を絞り、クレープを皿に移すと、気配に気付く。いつのまにか俊介も後ろに立っていて、見学していたようだ。     
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