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高校を卒業してから寄りつかなかった実家に、ある日荷物を取りに帰ったら、この子がいた。
「うまいか?」
自分の顔よりも大きなメロンパンに噛みついてもぐもぐと一生懸命食べている姿に声をかけると、顔をほころばして手の平を頬に二回あてた。
「おいしい、ってことだよな……」
昼間に時間が空くと、この家を覗くようになった。もう何度目だろうか。
これ以上情けをかけちゃダメだと思うのに、どうしても気になってしまうのだ。
「悠成……」
もう一度、思い切って名前を呼ぶと、メロンパンを食べる手が止まった。じっと不思議そうに俊介を見上げている。
「俺と一緒にくるか?」
先ほど病院で言われた言葉――。
『全体的に栄養が足りていないようです』
『もう少し、清潔な服を着させてあげてください。オムツももっとまめに替えてあげて』
――――お兄さん。
ご両親に伝えてください。この状態が続くようなら、いずれは児童相談センターに連絡を入れなければいけないかもしれない、と医師は言った。
できることなら実家になど帰りたくなかった。どうしても必要な書類がなかったらきっと戻ることもなかっただろう。
だが、久しぶりに帰ったそこには、小さな男の子がいた。それから気になって誰もいなそうなときを見計らって顔を出した。本当は、いなそうな時間など考えなくても、いつだってこのうちに大人がいることはなかった。
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