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だからこそ自分が想っているように相手も想ってくれるなんてのは、夢みたいな話だと、若くない相田はもう知っている。
「だけど、そうでもなかったみたいだよ」
「は?」
当時相田が出て行った後、満保にしては、珍しくかなり落ち込んでいたそうだ。
「今思えば、つまみ食いは多かったんだろうけど、長く続いていたのは和雅さんだけだったし、もちろんうちに連れてきたのもね」
「まさか……」
落ち込んで見えたのは、相田が満保にぞっこんだったから、自分から消えるわけないと高をくくっていて、意表を突かれたからだろう。
あのとき相田は、満保の連絡先を着信拒否し、満保のうちを出て行っただけだった。
たったそれだけでも、共通の知人もおらず、メアドと携帯番号しか連絡する手段を持たなかった満保には、それ以上どうすることもできなかったのだと思う。
よく行く場所も、親しい友人も、目指していた夢も――相田のことなどまるで知らなかったのだから、自業自得だと思った。
「そんなの聞いちゃうと、やっぱ気になる?」
だからそんなつもりは全くないのに。ばかばかしいと思いながらも思わず振り返ると、ふてくされている俊介と目が合った。
「っ、いてっ……デコピンすんな!」
額を抑えながら悶える俊介にさらに蹴りを入れる。
「おわっ……」
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