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「しけたツラしてんなー。そばにいたらこっちの運気が下がりそう……」
昔のことに思いを馳せていると、シンジの毒舌が降ってきた。他にお客様がいないのをいいことにぼんやりしていた相田に業を煮やしたらしい。
「あ?」
「久しぶりに食べに来てやったのに、なんだか心あらずなんだもん。店主がそんなだから暇なのか? この店」
「悪い……それからお待たせ」
薄くスライスしたバゲットをオーブンから取り出し、シンジの好きな自家製のレバーパテを添えてテーブルに置く。ろくに反論もしないで謝る相田に、いつもと違う様子を感じたのか、ワイングラスを置いたシンジが目を眇めた。
「さては鈴尾俊介となにかあったか?」
「うっ……」
本当にこいつは勘がいい。
もともとの察しの良さに加え、色恋沙汰ではさらに力を発揮するのだ。
「なんでそこにたどり着いちゃうかね……」
「あの子がお前に送る視線みたら、わかるわ」
観念して相田は頷いた。
俊介に子どもがいるとわかってから、自分の心に整理がつかないでいる。シンジの問いかけで、そのことを誰かに聞いてもらいたかったのだとはっきり悟った。
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