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「金目当てならなんとか許せても、子どもができるくらい入れ込んだ女がいるってことには、目を背けたいわけだ。勝手だな」
冷たい目線が相田に突き刺さる。確かに、自分の煮え切らない身勝手さを責められても反論できなかった。
がっくりうなだれる相田の肩に、シンジの手がそっと置かれた。
「もう、恥をかくのとか傷つくことを、怖がってても仕方ないんじゃないか?」
「うーん……」
「年齢も立場も関係なく、純粋にカズがどうしたいかが重要なんだと思う」
「…………シンジの言うとおりだな」
「それが長年気持ちを寄せてくれた相手に対する誠意だと思うぜ、俺は」
ごくまともなことを指摘されて、ぐうの音もでなかった。いい加減だと思っていたシンジの方がずっと大人だ。少なくとも自分のように、大切な相手を傷つけるようなことはしないだろう。
年齢や経験を重ねて、物事をうまく立ち回れるスキルは身についたと思っていたが、直球でぶつかってくる俊介にはそれが通用しない。心の中にある怖さを認めてしまうと、逆に心は軽くなった。
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