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 知らない人だけれど、父親から挨拶しなさいと促されたからというのが、表情に浮かんでいるのが利発そうな印象を受ける。  相田はかがんでから、目の前の男の子ににっこりとほほ笑んだ。 「はじめまして。パパのお友達の相田和雅です。おはようございます……えっと」  先ほど男の子の名前がよく聞き取れなかったので、言葉に詰まる相田に、俊介が横から教えてくれた。 「名前は悠成(ゆうせい)です」 「悠成くんか、いいお名前だね。よろしくね」  悠成は母親似なのだろうか、漆黒のストレートヘアの俊介とは対照的に、茶色くて柔らかそうな髪をしていた。癖毛なのか所々くるんとカールしているのがかわいらしい。 「すずおゆうせいです!」  キョロキョロ動く大きな瞳で、興味津々で相田を観察している。  自己紹介を終えると俊介の顔を確認し、俊介が頷くと途端に笑顔になった。俊介の子供の頃もこんな感じだっただろうかと、どこか懐かしくなった。 「保育園に行くところか? 引き留めちゃって悪かったな」  そういえば、ピンサロ通りを抜けた先に、深夜まで預かり対応している無認可保育園があったことを思い出した。  園長は強面だけれど人情味あふれる温かい人で、無認可ながらなかなかの規模を誇る保育園だと、以前ドキュメンタリー番組で観たことがあった。
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