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「やっぱり和雅さんの料理が好きなんです。すごく力をもらえるし、また頑張ろうって思えるから……。長居も邪魔もしないから。お願いします」
そこまで頼み込まれて、断れるはずもない。そもそもだって、俊介がなにかしたわけではなく、相田の勝手な思いから一方的に拒絶していただけだ。
「来ればいいだろ…………客なんだから」
途端に俊介の表情がぱあっと明るくなる。我ながらなんて言い草だと、さすがに呆れられただろうと思っていたのに、拍子抜けしてしまう。
「本当ですか? ありがとうございます」
こちらが気後れしてしまうくらい、何度も礼を言うと、俊介は悠成の手を引いた。
「悠成、じゃあ行こうか」
「うん。かじゅまささん、ばいばい」
父親が「和雅さん」と名前を呼んで親しそうに話していたせいか、悠成も相田に対する警戒がなくなったようだ。伸ばした腕をぶんぶん振っている。
「ばいばい、悠成くん」
気がつくと、離れてゆくふたりの後ろ姿を穴が開くほどみつめていて、あわてて相田も踵を返した。
親子で、家族で――。
ゲイであることが親にバレて、追い立てられるように家を出た相田にはもう、一生手に入らないもの。それがわかっているから、願ったこともなかった。
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