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水温との温度差が激しい人の体温。
志のの背の高さでは座ったままでも敵わない座高を利用して、斜め下に引っ張った明科の顔を待ち構えたかのように喰らい付いた。
数秒その感触を確かめたのち、呆気なく離れた唇と一緒に掴んだ襟元に込められた力もすっと抜かれる。
小さく響いたリップ音と共に離れたただ一点の顔の一部は、片方は驚きのあまり開きっぱなしで、片方は満足そうに口角を上げ笑った。
してやったりな笑顔を見せる志のを見下ろした明科は、その笑みを浮かべる頬を軽々しく片手で顎元から抓んだ。
「いたい・・」
「今のは100%お前の自業自得だろ」
唇の形が変わる程込められた力に、志のの歪んだ顔が音を上げる。
余韻の残る痛みに頬を擦りながら何事もなかったかのようにカウンターに向き合った二人。ただ、そこに在るのはお酒ではなく氷の溶け切った冷たい水。その違いだけ。
「あーあ、酔っぱらったなぁ。明科、タクシー呼んでよ」
「なんで俺が。お前、タクシーくらい捕まえられるってさっき言ってただろ」
「いいから、早く。」
「分かったよ、もう酒に逃げるんじゃねーぞ、めんどくせぇから」
頭を掻くように髪の毛を手で乱した明科がポケットに入っていた携帯を取り出し指で動かし始めた。
そして電話をかけたと思えば、店の場所と人数と名前をこれまたぶっきらぼうに答える。
普段とは一線置いた電話口の明科はかしこまっていて、横目で聞いていた志のがそれに対してククッと笑うと、手付かずだった右手がそっと志のの頭に伸びた。
「ちゃんと家まで送ってくれるんだ?」
「小山に社会的に殺されるからな」
「それだけ?」
「なんだよ」
「いいや、別に」
飲んでいるのは水なのに、志のはアルコールに似た熱にうなされたくて結局グラスの中の水を全て飲み干した。
それを見届けた明科が先に席を立ち、その横で未だふらついている志のがゆっくり席を立つ。
ペースの遅くなった志のに合わせるかのようなスピードで明科がコートを羽織ると、胸ポケットにそっと手を忍ばせた。
「ちゃんと家まで送ってよね。そこまでが、今日の明科の仕事」
「分かってるよ、こんな酔っぱらいその辺に置いていけるか。」
そして、カウンターに散らばっていた四枚の千円札の上に、明科が叩くように五千円札重ねると未だに覚束無い志のを抱え上げるように腕を掴んだ。
Fin
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