きっと僕らのその先は

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「・・で?今回は何?」 「浮気」 「はぁ?」 「私の・・す、好きが強くて・・っ返す自信がなかった・・って」 「どんないい訳よ。・・要するに」 重かったってことだ。 いい意味合いの言葉で、丸く収めたところで振られたという事実的ゴールは変わらない。 上手い言い訳をするもんだと由紀は志のを振ったと思われる男を想像して溜息を吐いた。 鎖骨近くまで伸びた志のの髪が項垂れたカウンターに降り曲がる様に散らばっている。 入店からさほど変わらないその景色は、志のが酒を煽るとき以外変わり映えしない。 そして、由紀が溜息を吐いた理由がもう一つ。今この状況を憂いているわけではない確信的な理由、それが、 「てゆうかさ、今月あんたのその姿見るの二回目なんだけど?」 「・・へ?」 月の下旬に当たる今日の他に同じような話を丁度月頭に聞かされていた。 由紀の中での二月は、志の泥酔しながら泣き喚き愚痴を聞かされることで始まり、同じ内容で終止符が打たれようとしていた。 「流石にさ、月初の話は2年だっけ?付き合った彼氏に振られたって言うから付き合ったけどさ」 「・・ん」 「今回のはまず誰?私今日あんたが付き合ったって事知って、今日別れ話聞かされてるの」 きょとんとする志のを見据えながら由紀は淡々と話を進めた。 カウンターに散らばっていた志のの髪の毛は頭を上げたせいで纏まりをもって胸元で揺れている。 下唇を噛みながら、半ば説教に近い由紀の言葉を耳に入れている志のも、目に溜めていた涙を零すことなく黙ってその声に耳を傾けていた。 「状況が掴めないのはもういいから、その恋愛体質早く治しなさい」 「・・・・・は、い」 「そもそもあの子はどうなったのよ?」 「あの子?」 「なんだっけ、志のにぞっこんで、ほら同期の・・・拓海くんだっけ?」 たった一人の男の名前で、数秒の間を置いて空気が凍った。 由紀が酔った頭で絞り出した男の名前に、志のが覚醒したかのようにカウンターをバンッと叩いたせいだ。 立ち上がりはしないものの、周りの視線が志の一点に集まり静まり返る中ハッキリとした口調で少し低めに鳴った音は、一瞬声かどうかを疑う程。 地を這いつくばったその声は確かに日本語という言語となって由紀の耳に届き、由紀もまたその声に不敵に笑って見せた。 「馬鹿言わないで、あるわけないでしょ」 「なんだ、元気じゃない」
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