きっと僕らのその先は

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拓海と呼ばれた一人の男。 何てことない、志のにとって同期の一人として顔見知っている男の名前だった。 明科 拓海(あかしな たくみ)数十人いる同期のなかで、入社式には名前順で並べられた席に隣同士に座り、肩を並べていた。 先に口を割ったのは彼の方、お昼休憩の時にふと掛けられた声に肩が跳ねた。 「名前、なんて読むの?」 「え?」 「それ、苗字読めない」 「あー・・えっと、あわきって読むの」 禾几 志の(あわき しの)珍しい苗字を背負っている志のにとっては読めないと言われるのは慣れっこだった。 ツンとした顔で名札を指さし読み方を問うたその男は、不愛想な面持ちだが口数の多い掴めない性格をしていた。 ふーん、と一言で終わらせたかと思えばその口からは次々と言葉が飛び出す。 弾まない雰囲気の会話をびくびくしながら続けると、予想以上に膨れ上がった内容に驚き嬉しさをも感じた。 「へぇ、下の名前も珍しいな」 「結構言われる、パソコンとかだと打ち間違えなんじゃないかって思われたり」 「確かにな」 その当時は、椅子に座っていても分かる背の高さは見上げないとその顔を確認することが出来なかった。 体格は細身だが、男としての威圧感が溢れる大きさと表情筋が死んでいるのではと疑う眠たそうな顔。 でも、そんな彼の不意に笑った顔が忘れられなかった。ぶっきらぼうなポーカーフェイスに似つかない人慣れした笑顔は度肝を抜かれた志のの固定概念をあっさり打ち砕いた。 並べられた数あるパイプ椅子の一角で、偶然苗字の頭文字が同じで、それが起因して隣の席に座った、ただそれだけの嬉しさを感じた志のも、無邪気に笑って見せた。 ただ一つ問題だったのが 「うるせぇな!クライアントがプランAでいいって言ってんだから、それを尊重すべきだろ」 「何寝ぼけた事言ってんのよ!!プランBの提案渋って隠したまんまなんでしょ?こっちのほうがクライアントにとってもうちにとってもメリットがある」 「プランBは目先のメリットを重視して、長期的なデメリットを回避することができないだろーが」 「長期的にするから問題が起きるのよ!試作と称して中期的に持っていくべきよ。その合間に新しい提案ができる可能性に掛けるべきだわ」 「まぁ、まぁ・・明科くんも禾几くんも、落ち着いて、ね」 「「黙っててもらえます?」」
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