きっと僕らのその先は

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「あ、・・あ・・っ」 「元気そうじゃん?心配して損した。おい小山、どこに酔い潰れて可哀想な女がいるってよ、酒の力で暴走したただの性悪しかいねーじゃねーか」 由紀の声にしては低く、重量感のあるその音に志のは力の抜けた腕をそっと下ろし、傾けかけたグラスをそっとカウンターに置いた。 そして、何故だか怖くて動かせない首に追い打ちをかける様に同じ低音が頭に響く。 サーっと血の気が引いたのは頭の中で聞き覚えと確信が結びついてしまったからだろう。 意を決して振り向いた先には、恐ろしい位眩しい笑顔で今の今まで話題の中にいた主人公が上から見下ろす目線で志のを眺めていた。 「明科・・・っ、なんで」 「ごめん、志の大分酔ってたからそろそろ危ないかなって思って・・呼んじゃった」 「呼ばれちゃった」 「なんでよ!!全然っ意味わからない!!」 カウンターに三つの背中。大きい背中が一つと小さな背中が二つ、志のの右には由紀が座り反対の席には明科が腰を下ろしていた。 普通の目線で見ればただの同期の集まり、少しの災難でカウンターしか空いてないと言われ渋々座って開催された同期会にしか見えない。 仲の良い同期で飲んでますっていう光景としては仲睦まじいものだが、志のの頭はアルコールに酔わされる程の隙間が焦燥と疑問で埋め尽くされ飲んだ酒の味すら有耶無耶になっていた。 未だに負け犬を見下すような目線を志のに向け続けている明科を余所に、酒がうまいと言わんばかりに煽り高笑いをする由紀。 連鎖だと己の置かれている不運を嘆く志のはここに来て時間稼ぎをするかのように手つかずだった割りばしをパチンと割った。 「本当に来ると思わなかったわー、あーおっかしい」 「どうして由紀はいつもそう勝手にっ!!」 「なんだかんだあんた達、仲いいじゃない。それにいくら女だからって私は志のを担いで家に帰る元気はありませんー」 「だからってこんな奴に担がせようだなんて・・いぃ゛っ」 「・・おい、お前さっきから俺に対する非礼を少しは詫びろよ」 割った割りばしの先を由紀に向けながら、志のは大きな口を開けて噛み付いた。 正面を見たまま目線だけ志のに向ける由紀は優越に浸っているような顔をしてそれを流し続けていた。 それを黙って見ていた明科が今度は面白くない顔をして志のの頬を抓る。不意に来た痛みに志のは濁った声を上げ、その手を叩き落した。
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