きっと僕らのその先は

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「知らないわよ!勝手に来て勝手に聞いてるあんたが悪い」 「少しは心配してきてやったんだろうが、この罰当たりが」 「文句なら由紀に言いなさいよ!!私はあんたなんか呼んでないわよ!」 男性特有の重みのある声と、頭に響く志のの高い声が交互に混ざって時折ぶつかって消える。 後に残るのは吐き出した時に消耗した体力を補おうとする荒い呼吸音だけ。 二人の姿を見て笑う由紀は最後の一滴を飲み干して音を立てずにグラスを置いた。 「わざわざ来てやったのに何だよその言い草」 「私は来てなんて頼んでないって言ってるでしょ!タクシーくらい酔っぱらってても拾えるわよ」 「何言ってんだよ、俺が来る前までふわふわ頭揺らしてた癖に」 「勝手でしょ、飲み方まであんたにとやかく言われる筋合いはないと思うけど」 「ほんっとに、可愛くねぇ」 言葉が飛び交っていた数分の時間も、明科の零した小さな感想で会話が途切れた。 どうしたらここまで険悪になれるのかそれすらも面白い由紀は椅子の柄が床を引き摺る音を出しながら椅子から立ち上がった。 いきなり大きくなった由紀の影に志のは大きく目を見開く。そしてすぐさまその服に縋り付いた。 「由紀、ど、どこ行くの?トイレ?」 「後は任せるわー明科君」 「ちょっと、待ってよ、ねぇ!」 「お金足りなかったら明日催促して、あ、もしかして明科君の奢り?ありがとう、流石できる男は違うわね」 「ふざけんなよ、俺来たばっかでお前らの半分も飲んでねーよ」 パラパラとカウンターに4,5枚の千円札を散らばらせた後、由紀は志のの手をそっと振り払ってコートを羽織りながら明科にだけ話しかけた。 適当にあしらう由紀に文句を言う明科は覇気が薄く、呆れたように言葉を打ち返すだけ。 志のに目線すら落とさなかった由紀が、鞄を肩に掛けたその時だけ、志のに対して言葉を放った。 「今月はあんたの愚痴に散々付き合わされたんだから、来月に向けて面白い話作っておくのよ」 「・・ゆ、」 「じゃあねー、明科、ちゃんと志のを家まで届けるのよ」 「知ったこっちゃねぇな」 「志のに万が一があったら、あんたが今手掛けてる新プロジェクトのプログラミングぶっ壊すからね」 「・・・」
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