第1章

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静かな雨の音を聴きながら、古い畳のにおいに切なさを覚える。 鮮やか。鮮やか。華やか。 纏うのは赤。黒や金、銀を交えて……大胆。色っぽく、艶のある着こなしは、けして安くならないように必要以上に肌は見せない。 前面で結わえた帯を抱え、末広がりの裾を翻す。 これは花嫁衣装だともいう。豪華に飾る、たった一時の為に。 大人しく椅子に座り両手を揃え、背筋を伸ばし、長く伸ばした黒髪を着々と結われていく。 櫛が通り、結わえあげられ……飾られる。一分の隙も無く、丁寧な作業により一夜限りの作品は仕上がっていく。 かんざし、くしは金に近い黄。こめかみへ垂れるビラかんは銀で、ゆらゆらキラキラ。大きな蝶が舞い降りたシルエットに、燐粉を散らすような輝き。 纏うたび、飾るたびに重くなる。 心にのし掛かる。 視界の端でキラキラ輝く銀色の反射を、瞼を閉じて遮った。 これでいいのだろうか。そう迷うのは、まだ完成していないから。 白く塗られただけの顔と首筋に、色もなければ飾りもないから。 首の付け根にキスマークをつけたら、きっと騒然となる。 「……ばかばかしい」
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