さくらキャンバス

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「目が疲れる景色だよ、まったく‥‥‥」  校庭に並ぶ大きな木は、原色の赤色や青色が葉と枝につけられていた。  春が近づくと、大学四年生は校庭の木を使って卒業作品を製作することが毎年決まっている。 「キコはこういう奇抜なデザイン嫌いだもんね」 「だって芸術じゃないもん。私は『木』というキャンバスを活かした、自然感溢れる作品が好きなの」  ただ色を並べてみました、と言っているような作品を見ると嫌な気分になる。 「確かに芸術じゃないわね‥‥‥でも一週間前なのに、まだ作品が完成していない誰かさんが言えることじゃないわね」  メルの指をさしている方向に目を向けると、一つだけ色がつけられていない木ーー私のキャンバスがあった。 「それ、私に言ってるよね?」 「さあ。ただまあ、偉そうに語ってないで、早く作ったほうが良いんじゃないかなって」 「そう出来たらそうしてるよ‥‥‥」  「卒業作品課題」という旨の書かれた紙が、掲示板に貼られてから一ヶ月ほど経つが、ちょうどその頃から私はスランプに陥ってしまっていた。  それに重ね、他の同級生たちがみるみる作品を完成させていくのを見ることは、とても辛いものだった。 「図書館とかで色々なものを見たら? 何か発想に繋がるかもしれないわ」 「メル‥‥‥でもあと一週間だよ?」 「向かい合う時間より、発想できる頭にする時間の方が大切よ」  さっきまでの皮肉交じりとは違い、優しくアドバイスしてくれたメルに感謝し、さっそく私は図書館に向かった。
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