未知なるダイス

2/3
前へ
/25ページ
次へ
 2017・3・6  僕はしがない派遣社員だ。山崎製パンってところに勤めている。  大学を卒業して印刷会社に就職したんだけど、これが超ブラックな会社でさ?  無糖が通用するのはコーヒーだけ。糖尿にならないからいーんだけどさ?  イライラと戦いながら印刷会社から帰る車の中で、ラジオを聞いていると可憐な歌声が聞こえてきた。  綾火、僕はあの夜から君の虜だ。  トランプ大統領の暴走、森友学園問題…………どーでもいい。綾火にもうすぐ会える!  昨夜は栃木県野木町にあるエニスホールに松下奈緒のコンサートに出掛けた。  巧みなタッチ、甘い音色が今も耳に残る。 『ゲゲゲの女房』はナカナカ面白かったな? 「だらず!」鳥取弁がユニークだったな?  実はこー見えてピアノを弾いたりするんだ。  YouTubeにアップした演奏を綾火が見てくれたらしく、本人からメールが来た。 《一緒に音楽を作ってみませんか?(^O^)》  最初は詐欺じゃないか?と、疑ったがメルアドを見たら間違いなく綾火からだった。  スター名鑑を見たらプロフィールには《趣味 ボーッとすること》と書いてあった。  ボーッとしているのはあぶないと思う。  スリに遭うかもしんない。  寒いなクソ!風がピューピュー吹きやがる!  あのブラック印刷!奴のせいで生活ガタガタだ! 「あんまり思い出すんじゃないよ、いくら君がミステリー好きでもさ?今回は殺人とか自殺とかタブーなんだから」  野良猫のルンバが話しかけてきた。  古河駅前のコンビニの前にいつもいる。  製パン工場が丘里団地にあり、そこからシャトルバスが出ている。古河駅までバスで10分くらいだ。派遣のクセに利用できるんだ。  イカンイカン、最近どーも自虐的だ。  自虐ならいいだろ?ワイルドだろぅ? 「タクヤくん、古いよ」  ルンバに猫パンチを喰らわされた。 「あー気持ちいい、僕ってドMだからさ?」 「Mな警官」 「それをゆーならSの警官でしょ?」  ルンバはドラマが好きだ。 「明日は名古屋へ行くんだ」  大須なんて言ったっておバカなルンバには理解できないだろう。 「麺作りが食べたい」  滝も富夫理の真似をしてベンチから立ち上がった。暗号を解読せよ!    
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加