ヒデオの飽くなき戦い

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ヒデオの飽くなき戦い

 ヒデオは万松寺に来ていた。織田信長が父親の信秀の葬式のときに抹香を投げつけた伝説が残っている。ヒデオは脚本家だ。  大河ドラマ『藤堂高虎』を制作中だ。  フィールドワークはドラマ作りには欠かせない。  藤堂高虎はあまりメジャーな武将ではない。  戦国時代に活躍した悪役だ。  しかし、戦国&幕末がマンネリ化している。  NHKの意向には逆らえないが、視聴率が低迷するとこの業界にいられなくなる。  名古屋は信長・秀吉・家康ら3英傑の生まれた土地だ。戦国時代を描くときには必要不可欠な場所だ。 『高虎ねぇ、清正の方が万人向けじゃない?』  ディレクターのヤスさんに言われた。  大道具係から這い上がった強者だ。  銀ちゃんって伝説の俳優の話をよくする。  話は脱線するが逗子にある魚屋には入らない方がいい。店の名前は忘れたがウィンナーの天ぷらってのを食ったら腹を壊した。  クチコミってのは意外に当たるんだ。 『加藤清正ね、賤ヶ岳の七本槍だろ?また、秀吉描くの?』  ADの下川が神経質な顔で言った。  アシスタントディレクター、カタカナだと響きはいいがパシられ役だ。  ヒデオも最初からこの業界にいたわけじゃない。  塾でアシスタントした経験もある。  教材のセールスだが誰も買う奴なんかいない。  不審者扱いされたり、最悪な気分だった。  研修期間は1ヶ月、20個売れれば本採用。  2度ダメなら3度…………やったけど売れない。  諦めて営業車のなかでPSPでメタルギアで遊んで時間を潰した。  生徒も講師も全てが詐欺師に思えた。  マシンガンで敵キャラを撃ち殺しながら、そんなことを考えたりした。  今すぐ撃ち殺してもいいんだけどさ?プロップガンで脅してやろうかな?脅すぐらいないーだろ?  プロップガンってのは撮影に使う偽物の拳銃だ。  ダララララッ!ってのは勿論効果音だ。  本当に撃つ場合もあるが、当てない程度にやるんだ。アクション俳優はそれくらいの射撃の腕は持っている。スタッフはキャスト以上に技能がなければならない。殺陣師の経験もあるぜよ? 『ダメですよ?殺人・自殺はNGです、もし書いたら三条河原にあなたの首を晒します』  編集マンの幻聴が聞こえた。  
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