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黄泉桜の夜
夜。桜。和服を着た、肌の白い女。
月明かりに浮かび上がる女の肌と、闇の中で踊る黒髪。
月光に桜吹雪が輝いて、揺れる烏の濡れ羽色を彩っている。ああ、俺はとうとうこの世じゃない場所に迷い込んじまったんだなと思った。
「黄泉桜って知ってる?」
「よみ、ざくら?」
手にした酒を飲むのも忘れて呆けていると、女の赤い唇が曲線を描き出した。
「もうすぐ死ぬ人間にしか見ることの出来ない桜。見る人の、死期を知らせる桜……」
ざあっ、と風が鳴った。舞い落ちる花びらで、女の顔が見えなくなる。
俺はどうしてこんなところに座り込んでいるんだっけ。差しのべられた白い手に指先を伸ばし、酒でもやがかかった記憶を掘り起こした。
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