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すぐにでも先輩を連れて立ち去りたかったけど、これから部下になる深沢さんに失礼なこともできない。彼女に罪はないんだから。
「米州部の篠田です。よろしく」
先輩に逃げられないよう腕は掴んだままだ。
「あっ、ふっ、深沢です!」
なぜかひどく怯えられたけど、今はそんなことどうでもいい。
「じゃ、急いでますので僕達はこれで。お疲れさまです」
「え、急ぐって?…あの」
先輩に余計な口を挟む暇も持たせないよう、すぐに腕を引っ張って歩き始めた。
背後からは片桐カップルの声が聞こえたけど、構わず細い路地に入る。
「ちょっと!どこに行くつもりなの?」
先輩のヒールの音がもつれて乱れた。
「どうして引っ張るの?
もう少しゆっくり歩いてよ!」
「……小椋と三人で飲みたいんですか?モタモタしてるとそうなりますが」
理由は小椋だけか?
…違う。
課長に奪われたくないからだ。
そして、これ以上片桐主任を見て欲しくなかったから。
何より、俺がそんな先輩を見ていられなかったからだ。
だったら、憎々しげに俺をなじる先輩の方がいい。
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