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先輩はしばらく黙りこんでいた。
でも、行き先も告げず強引に進む俺の背中を睨みつけているのが分かる。
何度目かの角を曲がり、もう誰にも見つかることのない場所まで来て、ようやく足を止めた。
「逃げたかったんでしょう?
あの二人から」
逃げたかったのは俺だ。
先輩を苦しめるすべてから。
先輩がじっと俺を見上げた。
まともに視線を合わせたことなんて今までなかったかもしれない。
大きな瞳で俺の心の奥を探るように見つめる先輩に、抑えつけてきた感情が膨れ上がりそうになる。
でも、多くは望まない。
今、願うのは一つだけ。
「うん……」
それだけでいい。
気まぐれでもいい。
手の中に彼女の腕が柔らかく寄り添うのを感じながら、今度はゆっくりと歩き始めた。
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