第3章

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*** 「ここにはよく来るの?」 「たまに、ですね」 入ったのは普段一人で来る店。 大勢でいるのも嫌いではないけど、基本は静かに飲むのが好きだ。 だからこの店を誰かに教えるのは戸川以来。 カウンター席の隣では先輩が少しリラックスした表情で店内を見回している。 動く度、肩の上で黒髪がサラサラと滑る様が綺麗だった。 「昔はよく来てましたよ。 先輩がコンビ組んでた戸川とね」 願望がこれ以上膨らまないように視線をグラスに戻した。 肩が触れそうで触れない距離。 それが、俺に許された最大限だ。 「戸川君と仲良かったんだ?」 戸川の指導員は先輩。 俺の指導員は片桐主任。 片桐主任はいい指導役だったけど、あの頃は先輩とペアの戸川が内心は羨ましかったなと新入社員時代を懐かしく思い出した。 「飲み友達ですね」 話題は留学のことや仕事のこと。 戸川と女関係を話題にすることはあまりなかった。
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