第3章

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「戸川君が結婚するとはね」 先輩の言葉に笑いつつ頷く。 戸川が悩んでいるのは知ってたし、相手が成瀬さんなのも知っていた。 でも相談を受けたこともないし、俺はただ見守っていただけ。 別れたのは戸川なりに何かを守ったんだろうってことも何となく察していた。 たぶん、彼女の自由な未来を。 その気持ちはよく分かる。 だから戸川が結婚した時は、戸川が苦悩の末に掴んだ幸せが嬉しかった。 ただ正直なところ、片桐主任に成瀬さんを渡さなかったからってのもあった。 出会った時から先輩は片桐主任のものだった。 だから俺は、先輩がそのまま幸せになることを願っていたのに。 「…私がいない間に、いろんなことが変わっちゃったわ」 ポソリ呟いた先輩の横顔は、昔、上海赴任前に見せたあの表情よりもっと寂しそうに見えた。
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