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先輩が抱える苦悩はきっと片桐主任のことだけではないのだろう。
嫌いな俺にまで漏らしたのは、それがあまりに深いから。
でも、俺がその深淵に立ち入ることを先輩はどこまで望んでいるのか。
少し躊躇してから口を開こうとした時、上着のポケットから呼び出し音が響いた。
相手は小椋。
タイミングの悪さに内心舌打ちしながら出た。
『もしもし?篠田君?』
小椋の声が異様にでかくて耳がキンキンする。
『ねえ、今どこ?二次会来てないじゃん!篠田君が行くって言うから来たのにぃ』
「ああ…ごめん」
グラスを持つ先輩の手が中途半端な高さで止まっているのは、たぶん小椋の声が聞こえているんだろう。
『もう、篠田君ひどいよぉ。
ねぇ、今どこ?
私、抜けるから一緒に飲もうよ』
先輩がちらりとこちらを窺ってから、ツンとあごを上げてグラスに口をつけた。
きっと、俺との望まないツーショットが終わることを期待しているに違いない。
それを見て、内心ニヤリとした。
そう簡単にいくものか。
期待されると逆らいたくなる。
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