第3章

17/36
前へ
/36ページ
次へ
先輩が抱える苦悩はきっと片桐主任のことだけではないのだろう。 嫌いな俺にまで漏らしたのは、それがあまりに深いから。 でも、俺がその深淵に立ち入ることを先輩はどこまで望んでいるのか。 少し躊躇してから口を開こうとした時、上着のポケットから呼び出し音が響いた。 相手は小椋。 タイミングの悪さに内心舌打ちしながら出た。 『もしもし?篠田君?』 小椋の声が異様にでかくて耳がキンキンする。 『ねえ、今どこ?二次会来てないじゃん!篠田君が行くって言うから来たのにぃ』 「ああ…ごめん」 グラスを持つ先輩の手が中途半端な高さで止まっているのは、たぶん小椋の声が聞こえているんだろう。 『もう、篠田君ひどいよぉ。 ねぇ、今どこ? 私、抜けるから一緒に飲もうよ』 先輩がちらりとこちらを窺ってから、ツンとあごを上げてグラスに口をつけた。 きっと、俺との望まないツーショットが終わることを期待しているに違いない。 それを見て、内心ニヤリとした。 そう簡単にいくものか。 期待されると逆らいたくなる。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1554人が本棚に入れています
本棚に追加