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説明する彼女の声は時々震えていた。
カウンターの上できゅっと握られた指は細くか弱い。
「……俺は意見できる立場ではないですが」
辛い時に一番側にいて欲しい男は、彼女の目の前で幸せになろうとしている。
孤独を埋めるその場しのぎの相手でしかない自分が痛かった。
「部長の意見はもっともですが、俺はまるっきり同意ではありませんね」
「どういう点が?」
「部下に仕事への正しい姿勢を教えるのは当然でしょう。
抑えつけと呼ぶのは酷では?」
「……」
「結局、部長は聞き分けのいい方に頼っているようにも思えます」
完璧主義を他人に押し付けるなという部長は確かに正しい。
だけど、小椋じゃ埒があかないからって、先輩に何もかも被せるのは腹が立つ。
「私も工夫が足りなかったの。
一本調子で押しつけたから」
「でも、もしあのまま小椋が他所に行ったら苦労するでしょう。
先輩が指導したことは間違ってないと思いますよ」
「そうかな…」
素直で弱々しい呟き。
「ずっと気を張ってきたの。
失望させちゃいけないって」
変な意味でなく、今の彼女にはまるで服を脱いで素肌を見せる時のような、そんな儚さと危うさがあった。
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