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「……小椋のことですけど」
店を出て路地を戻りながら口を開いた。
せっかく抜けたのに、まだ先輩の役に立つようなことを言えていない。
「勢いはいい奴だから、味方につければいい方向に働きますよ」
「味方にって…無理よ」
「正攻法で駄目なら、アメとムチで」
同期として近い場所から小椋を見てきた限り、小椋はおだてると狂喜して働く。
「ご機嫌を取れと?」
「いや。ただご機嫌を取るんじゃなくて、例えばアメに薬を入れるとか。自発的に頑張れる薬を」
ブタもおだてりゃ木に登るって言うし。
失敗して落ちるのを待つのもよし、さりげなく助けてやって恩義を売るもよし。
「アメに薬、ねぇ……」
彼女は納得がいかないらしく、思案顔で夜空を仰いでいる。
俺の肩を少し越すぐらいの背丈。
薄暗い街灯の光を受けてきらきらする大きな黒い瞳が綺麗だった。
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