第4章

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急いで立ち去ろうとするのに、先輩の声が俺の足を止めた。 「話、聞いてくれてありがとう。 ……リップも」 彼女はまだ胸にリップを握り締めたまま。 それが、嫌われ者で居続けようとする俺を中途半端にさせる。 「いえ。 また何かあったら言って下さい。 …じゃあ、また明日」 また歩き始めると、彼女の靴音も同じ早さで遠退いていく。 それはやがて消えていった。 未練や期待を振り切るように、歩調をさらに早めた。 あの瞬間、はっきりと認めてしまった。 好きだ、と。 キス一つで何を期待してる? 十年間変わらなかった彼女の心の奥底が、俺で変わるとでも? 「部長、遅くなりました」 「ああ篠田君、食事だったのに申し訳ない!羽鳥君も食事で抜けてるし僕じゃどうにも」 「大丈夫ですよ」 騒がしい部長との会話に頭を切り替えながら、もう逃げられない深みにはまった気がして心が落ち着かなかった。 打ち消しても打ち消しても、疼くのは手に入れたいという願い。 そんな望みはいずれ無惨に散ることになると、どこかで予感していた。 ただそれが思っていたより早く、何度も完膚無きまで打ちのめされるとは予想していなかった。
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