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あれから二週間。
俺たちの間には当然、何事も起こっていない。
どこかの部門から帰ってきたらしく、米州部横を通ってアジア部に向かう彼女の表情をチラッと観察する。
彼女は部長の叱責にも小椋の反抗的な態度にも何らかの折り合いをつけたのか、隣の島から眺める最近の彼女の表情はすっきりと晴れていた。
だけど俺は反対で、あることが引っ掛かっていた。
彼女の相談事とは無関係なこと。
まったく下らないはずのその出来事が、この二週間モヤモヤと俺の中に沈殿している。
「あ、亀岡さん、ちょっと」
その沈殿の原因、羽鳥課長が不意に彼女を呼び止め、手招きした。
「課長、どうかしました?」
軽やかな靴音が近づいてくる。
無関心を装いパソコンに顔を向けたままだから表情は見えないけれど、声からして彼女はにっこりと微笑んでいるはずだ。
「ごめんね、呼び付けて。
ちょうど横を通るのが見えたもんだから」
キュル、と羽鳥課長が椅子を回転させる音。
話し込むつもりだろう。
「この間の話だけど、今日どうかな?」
いきなり来た。
モヤモヤの核心に。
つい意識が隣の二人に集中する。
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